同人小説制作記

同人小説の制作過程おぼえがき

T&B4周年

日付はずれましたが、タイバニ放送開始から4周年が経ちました。

過去、作品の魅力についていろいろな議論が交わされました。今感じる感想を覚書します。グッズや公式イベント・キャンペーン展開は置いておいて、本編TVアニメ25話分についての感想です。評論ではなく主観的振り返りです。

 

タイバニはクオリティが高いアニメか、と問われたら、「そこそこ」に留まります。
タイバニは面白いアニメか、と聞かれたら大きく頷きます。

アニメとして、突っ込みどころや穴は多々あります。
・作画はアクションシーンは気持ち良いが、全体では標準的、マニアを唸らせるほどではない。
・ラスボス的テロ組織の存在が片手落ち
・ライバルのアンチヒーローの扱いも片手落ち

しかしそれらを差し引いても非常に楽しめます。個人的に面白いと思わされる要素は下記のようなものです。

 

■箱庭ヒーローゆえの彫りの深さ

主人公の実家が時々出てきますが、ヒーローの活躍は舞台となるマンハッタン的街の中でだけです。学園モノと大差ない活動範囲です。
世界的陰謀も一瞬出てきますが、舞台装置程度です。
巨悪の存在や自体よりも、「登場人物達がどういう人間で、ゆえにどう考え対処するか」に重きを置いています。
ショッキングなプロフィール等だけでなく、地味にさりげないところで人物のカラーを塗り重ねていきます。
視る側(の特に社会人)が共感を得るような場面を散りばめて惹きこんで行きます。
そういう「タイバニらしさ」が濃く出ているのは、4話ブルーローズエピソードと15話スカイハイのスランプのように思えます。

■4話がしみる

本編4話目は、1話完結のブルーローズエピソードです。言ってしまえばキャラ回です。しかし、ピックアップの視点が、人気キャラ賑やかしでなく妙に生々しいです。
ブルーロースは

「こんな仕事、命がけなのに報われない」

「自分がやりたかったことと方向性が全然違う」

「いまいち打ち込めない。道を変えようか」

という社畜的境遇の方なら
一度は思いそうなことに、真剣に向かい合っています。
15話のスカイハイも、「何かが不調だが、何故だろう」という自分の中の不協和音に悩みます。他人から素朴に「なぜ?」「なぜ?」と問われ続けることで、霧の中から抜け出します。
アメコミ的でコミカルなキャラクターであるのに、実に地道に進んでいきます。
8人のヒーローは、「自分が自分であるがゆえに避けて通れない課題」を常に抱えてヒーローをしています。
監督や制作サイドの「中年のおじさんたちに見て貰って元気になって欲しい」というコンセプトを忠実に体現している存在です。

■有言実行のコンセプト

中年のおじさんたち、というのは「ある程度社会に揉まれて壁や悩みにぶつかった人たち」と言い換えられます。
自分の意思と周りの環境との綱引きを幾多も越えてきたか、渦中にある人のことでもあります。
「中年の」と制作サイドは強調しますが、自身と周囲との間のギャップと戦うのは、20代でも30代でも同様であると思います。
女性人気が高いのも、若年女性層が主婦・働き手問わず、そういう戦いを経ているからではないかと感じます。
筆者も中年よりは若い女性ですが、登場人物の「自分」「仕事」「世間」「家族」に悩む局面では自身をオーバーラップしてしまうこともありました。
そして、中年または社会で生きていく上での葛藤を飲み込みやすく表したのが、ヒーローTVのポイント制度と地道な人間描写の対比だと思えます。

■「クオリティ」という概念の矛盾

ヒーローTVは、競争からあぶれてる主人公と、片や業界の寵児としてデビューした相棒という構図を際立たせる装置です。
しかし、(これも個人的シンパシーですが)、ポイント制度は、「世間が決める絶対指標」という側面もあるように思えました。
社会の中では効率的で公平(に見える)な評価が必要とされます。では、高い評価が出た人物は薔薇色かというとそうでもありません。
スカイハイは前述のようにスランプに陥るし、大人気のバーナビーは仕事にはストイックですが非常に情緒不安定な一面があります。
各々が個人の歩みを見定めつつ、社会からの絶対評価も受け入れて生きています。
一人の人物のクオリティは、視点次第でどのようにも変わる、と示されたような印象です。

多様な視点で物語を進めるから、人物を深く彫り込んでいけるのかもしれません。(掘り下げる、というより精緻に彫り込む)

 

そういうコンセプトの作品は今までもこれからもあるかもしれません。

その中でもタイバニは、観劇か観戦のような 娯楽性を展開しながら、作り手の強いコンセプトを届ける、気持ちのいいお話だと思います。

 

コンビヒーローへの所感も機会があればまた覚書したいと思います。